核融合

慣性閉じ込め核融合(Inertial Confinement Fusion:ICF)

慣性閉じ込め核融合(Inertial Confinement Fusion:ICF)では、人為的な燃料プラズマの閉じ込めを行わず、短時間に燃料を超高温・超高密度の状態にして核融合エネルギーを取り出す。

燃料であるDとTは、ペレット(pellet)と呼ばれる小球につめておく。そして、外部から高エネルギーのレーザーや荷電粒子ビームを入射する。このように、ペレットに外部からエネルギーを与え核融合反応を駆動させるものを、エネルギードライバー(energy driver)と呼ぶ。

Implosion.png

このエネルギードライバーにより、ペレットは内側中心に向けて急激に圧縮され核融合反応を起こす。これを爆縮(implosion)と呼ぶ。 したがって、このエネルギードライバーの性能がICFの実現に大きく影響することになる。

エネルギードライバ(Energy Driver)

エネルギードライバーは、いくつかのタイプが考えられている。各種のエネルギードライバーについて大まかな特徴を挙げると次のようになる。

  • レーザー・・・ 伝播や収束が容易.高繰り返しやエネルギー変換効率が悪い
  • 電子ビーム・・・ エネルギー変換効率が良い.自己電場による発散が大きく伝播や収束が困難
  • X線・・・大出力可能.高繰り返しが困難
  • イオンビーム・・・ エネルギー変換効率やペレットでの吸収特性が良い.伝播や収束が困難

このように、各エネルギードライバーにはそれぞれ長所・短所があり、現在のところICFの点火条件を満たすものは開発されていない。

粒子ビームによる慣性核融合

ターゲットペレットに与えるエネルギーの大きさは、ビームの粒子エネルギーと電流の積に比例する。単純に考えると高エネルギー粒子で大電流のビームを作れれば良いわけである。

しかし、阻止能(Stopping Power)との関係で、粒子の運動エネルギーの最大値はそのイオン種によって決められてしまう。つまり,あまりにも高速のイオンだと,標的内で止まらずに突き抜けてしまうのである.

したがって、電流量を調整することにより、ICFの点火条件を満たすことになる。 例えば、ICFの点火のために4[MJ]のエネルギーが必要だとする。もし、エネルギードライバーとしてプロトン(H+)などの軽イオンビーム(Light Ion Beam)を用いるとParticle Energyは多くても10[MeV]程度となる。ここで、1 [eV] = e [J]なので10 [MeV] = 10e [MJ]となる。このパラメータより4[MJ]のビームでは、

\frac{ 4 \textrm{[MJ]} }{ 10e \textrm{[MJ]} } = \frac{0.4}{e} \sim 2.5 \times 10^{18} \textrm{[particles]}

の粒子が必要となる。1個の粒子は1価つまりe[C]の電荷を持つとすると、全体の電荷量は0.4[C]となる。ICFでは人為的な閉じ込めを行わないので、閉じ込め時間τは数[ns]となる。したがって、エネルギードライバーに要求されるパルス幅は10[ns]程度となる。これらの条件より、軽イオンビームの電流は次のように導かれる。

I = \frac{ 0.4 \textrm{[C]} }{ 10 \times 10^{-9} \textrm{[ns]} } = 4 \times 10^7 \textrm{[A]}

エネルギードライバーとして、軽イオンビームを用いた場合、40[MA]もの電流が必要となる。

MA級の大電流ビームを作ることは非常に難しいが、大電流のビームを効率良く伝播・輸送することもまた難しい。荷電粒子ビームは、ビームを構成する粒子自身の空間電荷により、お互いに反発しあい径方向に発散してしまう。これを空間電荷効果(space charge effect)という。ビーム電流が小さいときには空間電荷効果が小さく、ビームはまっすぐに伝播することができる。しかし、電流が大きくなると徐々にビーム径が広がる。そして、ビーム電流が非常に大きくなるとビームの進行方向に仮想陽極(Virtual Anode)が形成され、ビームの輸送ができなくなる。  このように、大電流のビームを輸送する際には何らかの手段を用いてビームの空間電荷を中和する必要がある。

重イオン慣性核融合(Heavy Ion Inertial Fusion:HIF)

重イオン慣性核融合では,エネルギードライバとして重イオンビームを用いる.

エネルギードライバーとして、上で示した軽イオンビームの代わりにウランUやキセノンXe、セシウムCs,鉛Pb,ビスマスBiなどの重イオンを用いた重イオンビームを採用する手法も考えられる。この場合、プロトンなどの軽イオンに比べ阻止能(Stopping Power)が強いので、粒子の運動エネルギーをかなり大きくすることが可能になる。

ここで、先ほどと同様にICFの点火に必要なビーム電流をCs+などの重イオンビーム(Heavy Ion Beam)で見積もってみる。先ほどと同様にICF点火のために4[MJ]のエネルギーが必要だとする。重イオンビームの場合、Particle Energyは4[GeV]程度でも良いことになる。ここで4 [GeV] = 4e [GJ]なので4[MJ]のビームでは、

\frac{ 4 \textrm{[MJ]} }{ 4e \textrm{[GJ]} } = \frac{10^{-3}}{e} \sim 6.25 \times 10^{15} \textrm{[particles]}

の粒子が必要となる。ビーム粒子の価数は1価とすると、全体の電荷量は0.001 [C]となる。エネルギードライバーに要求されるパルス幅は10[ns]とすると、重イオンビームの電流は次のように導かれる。

I = \frac{ 10^{-3} \textrm{[C]} }{ 10 \times 10^{-9} \textrm{[ns]} } = 10^5 \textrm{[A]}

上記の結果より、エネルギードライバーに軽イオンビームを用いた場合は40[MA]もの大電流が必要であったが、重イオンビームを用いると100[kA]でよいことになる。 爆縮のためには1本のビームではなく,複数本のビームを用いるため,このビーム電流をビーム本数で割った値が,ビーム当りに要求される電流値となる.

したがって,エネルギードライバーとして重イオンビームを選択した場合,ビーム電流を少なくすることができるという利点がある。重イオンビームではビーム粒子の質量が重いので,弾道的に直進するため,ビーム輸送にも有利である.

このように、ICFのエネルギードライバーとして重イオンビームを用いた場合、他のドライバーと比較して有利な点が多く有効なものであると考えられる。

重イオンビームドライバー=粒子加速器システム

重イオン慣性核融合のエネルギードライバーは大電流の重イオンビームであり,以下のプラズマ・核融合学会の解説記事を参照のこと。

「重イオン慣性核融合のためのエネルギードライバー開発の進展」,プラズマ・核融合学会誌,小特集,第89巻第2号(2013年2月)

  1. はじめに http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2013_02/jspf2013_02-87.pdf
  2. 重イオン慣性核融合システムの全体像 http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2013_02/jspf2013_02-89.pdf
  3. イオン源 http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2013_02/jspf2013_02-96.pdf
  4. 誘導加速器 http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2013_02/jspf2013_02-102.pdf
  5. 最終集束系 http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2013_02/jspf2013_02-110.pdf
  6. おわりに http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2013_02/jspf2013_02-116.pdf

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Last-modified: 2013-03-04 (月) 22:54:44 (1660d)